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第3494号  2011年(平成23年)9月2日金曜日


健康・長寿の島であり続けるために 研究者と住民、行政が活発に意見交換 島嶼コミュニティ学会
  ミコの文化が心の支えに 医療補う伝統療法
● 風力で走ります iランドトープ号 NPO、電気自動車2台購入 自然エネ普及と環境観光を促進
高齢化コミュ フォーラム特集 平均寿命 女84.8歳 男77.3歳
 「島外移住者も取り込んで」
  個食 中年男性と高齢女性に多く
古代つながり伊豆諸島と阿波(3)「古代開拓 北関東まで」林博章氏
● 劇団かぶつ 結成から4年 初の東京公演 全国シニア演劇大会に参加
● 大島の廃校で現代美術展 国内外のアーティスト29人が参加
● 保健所 新庁舎で業務開始 エックス線デジタル撮影装置導入
● 8月の大雨で農道崩落、落石も
● 卓球Jr強化合宿 秋川と合同トレ
● 八丈島レインボーカップ2011 10、11日に
● たんしん 「空の日」イベント 17日に
● たんしん 大賀郷中運動会、三原中体育祭が18日に
● たんしん 敬老会 19日に
● たんしん 八丈島ソフトテニス夏季大会結果
● たんしん 産振研第32回ソフトボール大会結果



健康・長寿の島であり続けるために
研究者と住民、行政が活発に意見交換
島嶼コミュニティ学会








 超高齢化社会の八丈島で、島独特の伝統の中に未来の高齢化コミュニティ像を見い出すヒントはあるのか──。「高齢化コミュニティの未来を考える八丈島フォーラム」が8月20日、約75人が参加して七島信用組合2階で開かれた。長年、八丈島に通う研究者が「八丈島のコミュニティや福祉の原点となっていた伝統や文化」を報告。これをベースに、民生委員、町の保健師などのパネリスト、そして参加した住民を交えて、今後の島の高齢者支援、福祉・医療施策の方向性や方法論について、活発に意見が交換された。主催の島嶼コミュニティ学会は、「研究者と一般住民、官と民が話し合えたのは大きな意味があった。ひとり暮らしの高齢者や島外からの移住者が多い八丈島で、どんな支援が求められているのか、これからもこうしたフォーラムを開催し、話し合う機会を設けたい」としている。

 インキョ制度と朝まわり

 フォーラムの冒頭で、「世の中の価値観が大きく変わり、自分らしさを大切にしようという個人主義(自己中心の利己主義とは違う価値観)が定着してきた。そんな中で、地域の人が助け合いながら育んできた八丈島の良き伝統や文化が、保健や医療、福祉の施策をつくる上で生かされるのが望ましい、というのが学問的な立場からの提言。伝統と現代を結び、島の人たちの知恵とつなぎ合わせていきたい」と述べたのは、福島県立医科大学講師の立柳聡さん。

 その一例として立柳さんは「全国的に親子が同じ屋根の下で独立して暮らす二世帯住宅が増えているが、八丈島の伝統的なインキョ制度は、長男が結婚すると、親は母屋を長男夫婦に譲り、同じ敷地内に別棟を建てて暮らした。自由を守りつつ、いざ困った時には、近くにいるから安心できる。この家族のあり方は現代的ともいえる。また、大きなお宅は人々が日常的に寄り集まり、楽しく会話したり、問題を解決し合う場として提供されていた。現代版デイサービス事業所だった」と述べた。

 高齢者の4つの欲求

 つづいて埼玉医科大学短期大学講師、對馬秀子さんが「3月11日の大震災以後、コミュニティや絆という言葉をよく耳にするようになった。人と人をつなぎ、地域を維持していく仕組みとして、民俗慣行の果たしてきた役割は大きい」と語り、中之郷地区で早朝、個人の家に気の合う仲間が集まってお茶をのみ、語り合う「朝まわり」や、厄落としなどの民俗慣行を紹介した。

 對馬さんはさらに、ある社会学者があげている高齢者の4つの欲求(1.経済の安定2.身体の自由と安全3.心の安らぎ、謝意、敬意を得る人間関係4.生きがいや自己実現)にふれた。ロベの切葉で収入を得て、相場を読む楽しみもあって「今が一番幸せ」と語る島の高齢者の姿に、「この4つの欲求を自然に充足させていると思った」という。一方で、足腰が不安定になり、仕事も「朝まわり」もできなくなると、孤独感や不安感を抱く人が多い現実も目にしてきた。

 「高齢者が、自身にとって何が問題で、どんなサポートを必要としているかを、若い人たちに向けて積極的に声をあげてくれれば、島の明日への一歩につながるのではないか」と提言した。

 ミコの文化が心の支えに

 フォーラムの第1部では、巫女(ミコ)の研究で八丈島と青ヶ島に20年ほど通っている共立女子大学講師、土屋久さんが、東北地方のイタコ(巫女)の例も交えて『ミコの文化と癒し』を発表した。

 3月11日の震災で身内を亡くし、自分を責めてしまっている人たちの心のケアとして、死者の言葉を伝えるイタコの力は侮れないのでは、と土屋さんはいう。「人生の理不尽さを、先祖の因縁(専門用語で『原因の外部化』)などと説明されることで癒された事例は多い。八丈島、青ヶ島、八丈小島には共通したミコ文化があった。今活躍する人はいなくなったが、現代医療だけではカバーしきれない癒しの機能を果たしていた。復活は難しくても、ミコが持っていた機能を現代社会に生かす方向性を探る動きは意味のあること」と述べた。

 医療補う伝統療法

つづいて順天堂大学大学院生、岡本裕樹さんが、八丈島で聞き取り調査した伝統的治療法を紹介した。「セルフケアとしての伝統療法は、健康増進につなげていくツール。現代医療を相補うものであり、健康長寿の一助になるのでは」と指摘した。

 島嶼コミュニティ学会主催のフォーラムで、島の高齢者の実態が浮かび上がったのは、第2部「八丈町における現状の保健・医療・福祉のニーズ」。パネリストは、樫立、磯崎光太郎さん 、三根地区民生委員、赤松都さん、八丈町健康課保健師長、妻田敦子さん。

 月1回の病院通い島離れ気分転換に

 磯崎さんは、自身を「病み上手の死に下手」という知人の言葉にたとえ、ユーモアを交えて過去18年間の病歴を披露。月1回は専門科のある東京の病院へ通院するようになり、それが気分転換にもなっているという体験談を語った。「1万人足らずの島に、これだけ立派な病院と空港があるのだけは自慢ができる。八丈の人は恵まれている」と言うのも忘れなかった。

 在宅介護を望むも厳しい条件下に

 赤松さんは、民生委員として最近特に感じるのが、島にはひとり暮らしの高齢者や、高齢者だけの世帯が多いことだという。在宅介護や、自宅での終末を強く望む人は多いが、実際は家族間だけで問題を解決しようとしてしまいかねないことや、高齢者同士で介護するのは大変なこともあり、厳しい条件下にある、と指摘した。

 また、かつては人間関係が濃密だった島の環境も、「人の移動が激しい集合住宅では人間関係が希薄で、隣近所の声かけもお付き合いもない。個人情報という壁があり、相談を受けても、つないだ先の結果を知ることができない。プライバシーは大切だが、島を良くしていくためには、福祉の関係者みんなが一緒に高齢者問題を考えていくことが大切」と述べた。

 平均寿命女84.8歳男77.3歳

 妻田保健師長は、多くの調査の数字をもとに八丈島の実態を示した=別掲。平均寿命は05年に女性が84・8歳、男性が77・3歳で、全国平均(女性85・49歳、男性78・53歳)と比べると上位ではないが、00年(女性83・9歳、男性76・8歳)よりは延びており、10年の調査結果はさらに延びが見込まれるという。また「実績医療費が低いのは、温暖な気候が免疫力を高めているのでは」と指摘した。

 「島はひとり暮らしの高齢者が多く、孤立への対応がわたしども行政の課題。『町の保健福祉センターは何をしているところ?』という人を減らすようにしたい」と妻田さん。健康寿命の延伸のために同センターで開いている高齢者健康教室などの活動も紹介した。

 「島外移住者も取り込んで」

 自由討議の第3部では、参加者からもさまざまな発言があった。

 「この島の現状は、制度内のサービスをいかに充実させるかが課題だと思う。また、外からの移住者が非常に多いので、そうした人たちを取り込んだ形でコミュニティを構築する必要がある」との意見や、「八丈は島外出身の人との婚姻が多く、いろんな価値観の人や情報が入ってきている」との声も聞かれた。

 島外から移住した人からは、「高齢者宅へのお弁当の配達を通して、おしゃべりをしたくてもそうした機会のない高齢者が多いことがわかった。気楽にお茶を飲む場として自分の家を提供しようと考えている」「夫婦とも島外の出身ですが、島の中はやさしくて子育てがしやすいのは先人の方たちのおかげ、と思う。自分の子どもにはお年寄りたちから島の文化を教わって、衰退させないようにしたい」などの発言もあった。

 出席していた笹本重喜町健康課長は、「坂上3地域でさえ地域性に違いがあり、島外の人が多い坂下地域はまた事情が違ってくるので、実情に合わせる必要がある」と、八丈島全体で一律の方向性は示せないことにふれた。

 国としては、「改正高齢者住まい法」の成立により、自宅にいて施設にいるのと同じサービスを受けられるという介護の方向性が示されていることを報告。「介護保険事業計画には、ここで聞いた話も含めて多くの人の意見を反映させたい。また、住民の不安を取り除くため、きめの細かいサービスを提供していきたい」とした。

 個食  中年男性と高齢女性に多く

 フォーラムでは、町保健師長の妻田敦子さんから、「八丈町世代別生活調査」の集計結果が発表された。

 アンケートは、地域別年齢構成をもとに無作為抽出した40歳以上の3000人(対象人口の53%)に調査票を郵送して行われ、1178人(▽40〜49歳=152▽50〜59歳=246▽60〜69歳=332▽70〜79歳=281▽80〜89歳=143▽90歳以上=24)から有効回答を得た。回収率は39%。

 同居家族の有無(複数回答)は、「配偶者」が45%、「子」21%、「兄弟」2%、「その他」9%、そして「ひとり世帯」は22%。

 親戚いないひとり世帯  男性61%、女性23%

 「ひとり世帯」を細かくみると、男性は40〜69歳までの年齢層でいずれも20%を超え、女性は70〜89歳が多い。また、「ひとり世帯」で、「島内に子どもや兄弟、親戚がいない人」は、男性が61%、女性が23%。

 外食や惣菜・お弁当の利用頻度は、「ほぼ毎日」4%、「週2・3回」10%、「週1回」23%、「ほとんどない」59%。朝食は「いつも食べる・食べるほうが多い」が91%。

 朝食・夕食を誰かと一緒に食べるかについては、「あまり一緒に食べない」「ほとんど一緒に食べない」という男性は、朝食で37%、夕食28%。女性は朝食が39%、夕食30%。 

 興味深いのは年齢による男女の差異。男性が働き盛りの40、50代に「個食」が多く、女性は高齢になってからの「個食」が増える傾向がくっきり現れている。

 健康状態は、「良い」「まあまあ良い」が全体の75%。定期健康診断や人間ドックの受診状況は「年に1度は受けている」が男性62%、女性60%。

 ここ1カ月にあったストレスの有無については「非常にあった」「あった」が49%。飲酒は「飲まない」が男性31%、女性74%。喫煙習慣は、「吸わない」が男性52%、女性85%。50代の女性で「吸っている」が18%に達するが、これは全国調査の約2倍と多い。

 (調査結果の小数点以下は省略しました・編集部)