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第3475号  2011年(平成23年)3月18日金曜日


東日本大震災 一変した日本社会
「都内の家族に送る」 電池、コメ、保存食… 商店に買い物客詰めかけ
● ツアー続々キャンセル イベントも中止・延期へ 町が義援金窓口
● 原発事故 深刻な事態 被災住民に見えない恐怖 八丈島にはない放射能測定機器
● 東電が計画停電 八丈でも節電呼びかけ
● 長い横揺れ、港に渦巻き 八丈島震度3
● 三陸の漁業 復興いつの日に…
● 島嶼会館休業
洞輪沢漁港で 係留漁船に被害

伐採木処理費 お金かけるのに抵抗感 処分場適正化のコスト 町と議会で認識にずれ
「八丈島はサイズがちょうどいい」 エッセイスト・国井律子さん

● 法人化 臨時総会で了承 「メリットは運営の透明化」八丈島観光協会
ぐるぐる鉢巻き道路10周 エコ・ジャーニーマラソン

● 収益の半分 義援金に ちょんこめまつり
●「議会に説明を」 観光協会法人化 議会運営委員会で議論

● 海の向こうの武宰士 武宰士フル出場も初黒星 
● さわさわ 「帰宅難民体験」 森清耕一氏
● 八丈島漁協 2010年漁獲高 対前年比14%増 9億6736万円 カツオ漁獲量5倍増で
● 負担軽減して増産へ 水産加工協 第39回総会
● 植樹 三根小で「ライオンズクラブ」 町立八丈病院で「みずほフィナンシャルグループ」
● 往年の名選手がJrをコーチ
● たんしん 第43回八丈島卓球大会結果
● たんしん 八丈島テニスクラブ冬季大会結果
● たんしん ゴルフ同好会月例コンペ結果




東日本大震災
一変した日本社会









 宮城県北部で最大震度7、マグニチュード9.0と、国内観測史上最大規模となった11日の東北地方太平洋沖地震。午後2時46分の発生からわずか30分後に沿岸各地を襲い始めた大津波により、10市3町は壊滅的被害を受けた。15日現在の死者・行方不明者は1万人を超え、約50万人が避難生活を強いられている。また、この地震により活断層の上にある福島第1原子力発電所で、国内初の炉心溶融、原子炉の格納容器の破損事故が発生。放射性物質の漏えいが始まっており、一般市民が広範に被ばくするという深刻な事態になっている。八丈島では観光のキャンセルが相次ぐなど、住民生活にもさまざまな影響が出始めている。
 
 地震・津波ともに、八丈島への直接的な被害は少なかったが、今後はあらゆる分野で島民生活への影響は避けられなくなりそうだ。
 地震発生以後は島内でも固定電話、携帯電話共につながりにくい状態が続いた。八丈島にも被災地の関係者や出身者は少なくないが、「安否の連絡が取れない」という声が聞かれた。
 ほとんどの島民は都内に家族や親戚、知り合いがいる。災害発生以降は「入手しづらくなっている家族に送りたいから」と、スーパーや商店などで米、カップ麺などのインスタント食品、乾電池、懐中電灯、トイレットペーパー、生理用品などを買い求める客が多く見られ、販売店も「なんとか物を確保したい」と、仕入れに努力している。
 郵便局のゆうパック、ヤマト運輸の宅急便ともに、北海道、青森、秋田、岩手、宮城、山形、福島、茨城などの被災エリア(事業者により異なる)への配送は、貨物の引き受けを停止している。首都圏についても「配達が大幅に遅れることもある」としている。
     ◎
 気になるのは、今後の食料品・日用品、ガソリンなどの品不足と値上げ。内地の輸送・流通状況によっては品物の確保や八丈までの輸送が滞る事態も考えられるためだ。住民は「地震はおさまっていないし、原発も心配。食糧やガソリンなどの備蓄や供給についての情報を行政はすぐに把握して、知らせてほしい」という切実な声が強まっている。
     ◎
 1、2月と来島者数がわずかながら増加に転じ、明るい兆しが見えつつあった八丈島の観光にとっても大打撃だ。大地震発生以後、フリージアまつり期間中に予定されていた各エージェントのツアーは、中止の連絡が相次いだ。町営の貸し切りバスの予約は14日までに19本がキャンセルされた。25日のにっぽん丸寄港は実施される予定だ(14日現在)。「被災地のことを思えば、旅行どころではないし、この先の地震も心配で、自宅を離れることもできない。都内の停電や交通網の混乱も影響する」と観光事業者はいう。
 八丈町のイベントにも大きな影響が出た。14日から17日まで予定されていた官公庁へのフリージアキャラバンが中止になったのをはじめ、19、20日の第21回八丈島産業祭、21日からの第45回フリージアまつりも中止を決めた。
 町観光商工係では「4月以降も予定されていたイベントの見直しが必要になる」としており、新年度の観光事業全体もこうした緊急事態に合わせて再検討を迫られることになりそうだ。
 予定していたフリージアまつりの期間中(3月21日?4月3日)は八形山の畑を開放し、来島者に花を見てもらい、摘み取りなども行う。キャラバンなどで使用する花は、農家と契約していたため予定通り購入。約4000本は、訪問を予定していた都内などの関係機関や、八丈島料理を提供する飲食店などに送った。残りの分についても、島内の宿泊施設などに配布するほか、観光協会窓口で「フリージア募金」を呼びかけ、募金者に配布している。
 5日から開催中だったフィッシング・チャレンジカップは、11日に大津波警報が出された時点で中止し、13日の表彰式も取り止めた。13日に予定していた「第5回八丈島ものしり検定」は4月24日に延期した。
     ◎
 町は14日から「東北関東大震災義援金」の受け付けを町役場住民課窓口と各出張所で開始した。
 被災地では、避難している人たちのもとへ赤ちゃん用のミルクやおむつ、食料など、必要なものが届いていないが、支援物資を送ることはできない現段階では、義援金が役立つという。
     ◎
 福島で原発事故が拡大している。巨大地震と大津波に襲われた住民は、今度は放射能汚染という見えない恐怖におびえている。また、ガソリンがないため他の場所へ移動することもできず、不安の声も上がっている。
 12日の福島第1原子力発電所1号機での爆発につづき、14日には同3号機(放射能量が多いプルサーマル発電)で水素爆発があり、煙が黒く高く上がった。このときは、放射性物質を含んだ雲の多くは海側に流れた。3号機での爆発で2号機の格納容器が損傷し、東京電力はメルトダウン(炉心溶融)発生の恐れを否定できないと発表した。15日には4号機の原子炉建屋で火災。新たに半径20?30キロ圏内の住民に屋内退避が指示された。16日は事態がさらに悪化。4号機の火災が制御できない状況になっている。
     ◎
 1986年に起きた旧ソ連のチェルノブイリ原発事故の4日後、八丈島では測候所が臨時観測態勢に入り、事故後9日目の雨水から放射能を検出した。7、8日目の雨には含まれていなかったが、有害なレベルではなかった。保健所は数カ所で採取した雨水と水道水を検査。町も広報車4台で注意を呼びかけた。
 測候所が閉鎖された現在、島内に測定機器はなく、観測態勢はとられていない。保健所では「健康に影響するような放射能の拡大の可能性が出てくれば、都、国から何らかの指示があると思われる」と、指示待ちの状況だ。
     ◎
 原発の機能停止により、東京電力の電力供給区域の1都8県(山梨県・静岡県は富士川より東側)で供給不足に陥り、14日から都心部を除き、初の「計画停電」が実施されている。4月中には千葉県や都内の火力発電所で復旧を急ぐほか、定期点検中の火力の立ち上げを早めるなどして1000万キロワット分の供給力を回復させるという。
 計画停電の対象地域では工場や一般家庭、通信設備への電力供給が止まるほか、私鉄など首都圏の鉄道の運行計画が大幅に乱れるなど、国民生活への影響は長期にわたることになる。 
 電力の供給系統が独立している八丈島では計画停電は行われない。東京電力八丈島事務所では「燃料の消費を抑えることが、長い目でみれば被災地の支援につながる。島民の皆さまにも節電への協力をお願いしたい」と呼びかけている。
 現在、島内では地熱発電が2000キロワットで通常運転を行っており、これにC重油による内燃力発電をプラスしている。
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 東日本大震災が発生した11日午後2時46分。八丈町でも1分以上にわたる長い横揺れが続いた。三根で震度3、樫立で震度2を観測した。揺れはすぐにはおさまらず、夕方まで断続的に続いた。
 大地震発生直後、八丈島では全国瞬時警報システムが自動的に作動し、防災無線からサイレンと共に地震の発生と津波への警戒が伝えられた。港湾や漁港内にいた工事関係者、漁業関係者らが作業を中止して高台に避難。携帯電話で情報を確認しながら水平線に目を向けている人もいた。
 気象庁が発表した伊豆諸島への津波の到達時刻は午後3時30分。この前後から島の海岸線で潮位に大きな変化が現れた。
 神湊漁港では、漁港最深部の漁船泊地に向かって潮が「ゴー」という音を立てながら入っていったかと思うと、一気に引き潮に変わるなど、普段見られない潮の変化が続いた。高台で見守る人たちからは「こんな速い流れは見たことがない。まるで河のようだ」と驚きの声が漏れた。
 底土接岸堤でも、潮位の上げ下げが短時間に起きた。カヌー揚げ場の入り口には、潮がぶつかり合っていくつもの渦巻きができ、海底の泥を黒く巻き上げた。
 海上保安庁の観測では、最も潮位差が大きかったのは午後3時45分ごろで、八重根で約2.5メートル、神湊で約2メートル。この時間帯は干潮時だった。
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 中之郷の温泉「やすらぎの湯」と「足湯・きらめき」は大地震直後に汲み上げた温泉がチョコレート色に変わった。11日は共に臨時休業したが、翌日は湯の色は透明に戻った。
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 船・飛行機の便も混乱した。11日の全日空昼便の東京行き(826便)は、午後2時16分に乗客95人を乗せて八丈島空港を出発したが、羽田空港が滑走路の点検で閉鎖されたため、午後3時45分に静岡空港へ着陸。最終便は欠航となった。
 11日朝に八丈島を出た東海汽船も、大津波警報によって東京港へ入港が制限されたため、同日は沖合に停泊。出発から一日経った翌12日の午前10時30分、救済措置として竹芝入港が許可され、乗客120人が下船した。12日夜の東京発は、通常通り運航した。
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 三陸沿岸は「世界3大漁場」と呼ばれる有数の好漁場。今回の津波では、多くの漁港、漁船などが壊滅的な被害を受けた。
 リアス式の静かな湾内には至るところに養殖施設があり、カキは広島に次いで2位、ワカメは全国の4割以上のシェアだ。有名な気仙沼のフカヒレをはじめ、かまぼこや干物・乾物の生産など加工業も盛んだが、これらの施設も大打撃を受け、今後の水産物の供給に大きな影響が出そうだ。
 八丈島の漁で使う釣りえさのイカも三陸産が多く、関係者は同じ漁業に携わる仲間の被災に心を痛める。その上で「船や港もそうだが、多くの漁業者が犠牲になったことが大きい。漁業は船があれば明日からできる仕事ではなく、技術や経験を積むのに何年もかかるから…」と、被災地の漁業復興の困難さを指摘する。
 さらに、放射能による風評被害や計画停電の長期化が魚の消費意欲を減らす原因となることも懸念される。「冷蔵庫があてにならなければ、生ものは買わなくなる。魚離れが加速しなければいいが」と話している。
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 漁船に被害があったのは洞輪沢漁港。11日深夜から入り込んだ潮によって渦巻き状の強い流れが港内にできた。このため岸壁に係留していたロープが切れた漁船4隻が潮に流され、港の中央付近で海底に打たれた杭につないだアンカーロープに絡まるように回転した。船が左舷に45度ほど傾いた勢龍丸(沖山稔船主)4は一部が浸水、ひき縄用のトップ竿も折れた。他の3隻も船体に損傷を負った。
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 浜松町の島嶼会館は、11日の東日本巨大地震で建物の土台や外壁、内部に亀裂や損傷ができる被害を受けた。安全確認ができるまで、当分の間は休業することになった。
 会館内に事務所があった東京都島嶼町村会と東京都島嶼町村一部事務組合は、島しょ振興公社が入っている「ニューピア竹芝サウスタワー」に事務所を移す予定。

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 写真上・中は神湊漁港内。海水が河のように流れた。写真下は破損した勢龍丸